2025.01.07
相談員ブログ
ESBL産生菌について
【ESBL産生菌とは】ESBLは「基質特異性拡張型βラクタマーゼ」の略称です。
βラクタマーゼはさまざまな抗菌薬を破壊する能力を持つ酵素です。
この酵素を産生する菌を「ESBL産生菌」と呼びます。
ESBLを産生する細菌は、主に大腸菌と肺炎桿菌(かんきん:棒状・円筒状の細菌)ですが、そのほかの腸内細菌もESBLを産生することがあります。
ESBL産生菌は、日本では1995年に初めて報告されましたが、2000年頃より増加傾向にあります。
通常の抗菌薬では効果が現れませんが、ESBLの作用を受けない抗菌薬で治療を行います。
【ESBLの注意点】
ESBL産生菌は健常者の腸管内からも検出される場合がありますが、通常は健康を害することはありません。
ただし、免疫力が低下している状態の方や高齢者の場合、敗血症や髄膜炎、肺炎、創部感染症、尿路感染症などを引き起こすリスクが高まります。
そして、ESBL産生菌特有の性質から以下の点に注意が必要です。
・感染症の重症化
尿路感染症や肺炎などの何らかの感染症を起こしている場合、菌がESBLの特性を持ってしまうことがあります。
そのような状態になると、元々の感染症が重症化して敗血症を引き起こしたり、新たな感染症を招いたりして病状の悪化をもたらします。
・水平伝播
ESBLは水平伝播(全く異なる種に遺伝子が転移する現象)しやすく、同じ菌種間だけでなく異なる菌種間にまで伝達される特徴があります。
例えば、ESBLが大腸菌に結合することで、「ESBL産生大腸菌」が発生し、それが肺炎桿菌と接触すると「ESBL産生肺炎桿菌」が発生する場合もあります。
【感染経路】
ESBL産生菌の主な感染経路は、スタッフの手指や触れた物を介した「接触感染」です。
通常の健康状態のスタッフが感染する危険性はありませんが、ケアしたスタッフが菌を媒介して感染を拡大させる可能性があります。
具体的には、下記のような時には特に注意を払わないとなりません。
・陰部に接触する場面
オムツ交換や清拭、陰部洗浄を行う時
・気道分泌物に関して接触する場面
痰の吸引や口腔ケアを行う時
・尿に関して接触する場面
尿道カテーテルによる尿破棄を行う時
【感染対策】
咳や痰、下痢や便失禁、褥瘡による排膿など、耐性菌を周囲に広げやすい状況が認められる場合には、以下の対策が必要です。
・個別対応
オムツ交換などを行う際は個室対応にし、入浴の順番は最後にします。
・手袋とガウンの着用
血液、体液、分泌物、排泄物に接触する際には、必ず使い捨て手袋とガウンを着用します。
使用後の防護具は退室前に廃棄できるよう準備しておきます。
・手指消毒
対応後は、石鹸と流水による手洗い、アルコール消毒剤による手指衛生を徹底します。
・環境整備
ベッド柵、スイッチボタン、ドアノブ、トイレなど、頻繁に接触する箇所はこまめに清拭消毒します。