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2025.10.03
相談員ブログ

介護の三原則について

「介護の三原則」は、介護を必要とされる一人ひとりの尊厳を守り、その人らしい生活を支えるための基本的な指針です。この理念は1982年、福祉先進国デンマークで提唱されました。当時、デンマークでは高齢化が進み、大規模介護施設での集団ケアに限界が見え始めていました。こうした背景のなかで、「高齢者問題委員会」の委員長であったベント・アナセン氏が提唱したもので、後に「アナセンの三原則」とも呼ばれるようになりました。デンマークのこの革新的な理念は、日本をはじめ世界の介護の基盤となっています。
三原則は「生活の継続性」「自己決定の尊重」「残存能力の活用」の3つです。

【三原則誕生の背景】
1960年代以降、デンマークの高齢者人口が増加し、介護の需要が拡大しました、これにともない介護施設が多く作られましたが、集団ケア中心の体制は多くの高齢者にとって居心地の良いものではありませんでした。施設に移ることで生活環境が大きく変わり、自立生活への意欲がそがれることも少なくなかったのです。こうした問題を解決し、高齢者が「その人らしく生きる」ことを支えるケアの方向転換が求められていました。そこで示されたのが「介護の三原則」であり、これに基づき在宅介護や個別ケアを重視した福祉政策が推進されました。

【①生活の継続性】
これは、介護が必要になっても、それまでの生活環境や習慣をできる限り維持できるように支える原則です。長年慣れ親しんだ住まいや地域、日々のリズム、趣味や価値観を尊重することで、環境の変化によるストレスを軽減します。例えば、施設入居時にお気に入りの家具や道具を持ち込んだり、食事の時間やメニューを利用者の習慣に合わせたりといった配慮がこれにあたります。特に認知症の方にとって、生活の継続性は症状の悪化を防ぐ上でも非常に重要です。

【②自己決定の尊重】
この原則は、介護を受ける人が、自分の暮らし方や日々の選択を自ら決める権利を保障し、その意思を最大限に尊重することです。身体的な制限や病状の悪化があっても可能な限り本人が決められる環境をつくることが理想です。食事の内容、入浴や外出のタイミング、生活リズムなど小さなことから本人の意志を尊重し、生活の主体性を支えます。日本では依然として周囲の都合で決められることも少なくありませんが、本人の本音を引き出して尊重することが介護の質向上につながります。

【③残存能力の活用】
これは、介護を受ける人の今持っている能力や力を最大限に活かし、自分でできることはできる範囲で行ってもらうことを重視する原則です。過剰な介助はかえって自立心や身体機能を損なう可能性があります。介護者は必要最低限の支援に留め、本人の自立を促します。例えば、食事の際にお箸の使い方を援助しつつ、できる部分は本人に任せる、入浴時に浴槽をまたぐ動作をサポートするといった支援が考えられます。介護者は単に世話するのではなく、本人の生活意欲を引き出す支援者であることを常に意識する必要があります。

【日本における三原則の普及】
日本では、介護保険制度が始まる2000年以前は効率優先の集団ケアが主流でしたが、「自分らしい生活」「尊厳ある暮らし」への要求から、三原則の理念が強調されるようになりました。現在では、施設介護や在宅ケアの現場だけでなく、家族や地域の支援者にとっても介護の三原則は基本的な心構えとして認識されています。人生の最期まで「その人らしさ」を守る介護を実現するには、三原則の理解と実践が不可欠です。

【三原則がもたらす変化】
三原則の浸透によって、介護の現場では利用者一人ひとりの尊厳が重視されるようになり、「画一的ではなく個別性のある支援の実践」に価値が見出せるようになりました。介護者自身も、自己決定や残存能力を意識した支援を行うことで働く意義や介護の本当の意味に気づけるようになります。
介護の三原則は、介護する人・受ける人双方にとって、人生の質(QOL)向上に欠かせない考え方です。すべての介護の現場で、三原則が大切にされ、誰もが安心してその人らしい暮らしを送ることができる社会を目指していきましょう。
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