2025.06.18
相談員ブログ
同じ介護度でも負担額が違うのはなぜか。
【同じ介護度でも負担額が違う理由】介護施設を利用するとき、「同じ要介護3でも、施設によって支払う金額がかなり違う」と感じた方は少なくないでしょう。これは計算ミスや不当な請求ではなく、介護保険制度の仕組みによる正当な違いです。
介護費用に差が生じる主な理由のうち、特に大きく影響する「加算」と「地域差」について解説します。
【加算制度:手厚いケアには追加報酬がつく仕組み】
介護施設では、基本的なサービスに対して「基本報酬」が支払われますが、それに加えて特別な取り組みや体制を整えている場合には、「加算」と呼ばれる追加の報酬が認められています。
加算の例として、次のようなものがあります。
・夜勤職員配置加算
夜間にも職員を十分に配置している施設に適用されます。夜間の見守り体制が強化されることで、転倒などの事故への対応も迅速になります。
・個別機能訓練加算
利用者一人ひとりに合わせたリハビリ(機能訓練)を実施している施設に適用されます。身体機能の維持・改善を目指す方にとって効果的な加算です。
・認知症ケア加算
認知症の利用者に対して、専門的なケア体制や研修を整えている施設に適用されます。認知症のある方でも安心して暮らせる環境が整っていることを示します。
・看取り介護加算
終末期におけるケア(看取り)に対応できる体制が整っている施設に適応されます。最期のときを穏やかに迎えられるよう支援する体制が条件となります。
・栄養マネジメント加算
管理栄養士が常勤し、個々の利用者の栄養状態を把握して支援している施設に対して加算されます。低栄養や体重減少の防止など、健康維持に役立ちます。
これらの加算は、1日あたり数十円から数百円の自己負担増につながることがあり、月単位では数千円から1万円以上の差が出ることもあります。つまり、「介護費用が高い施設」は、「より手厚いサービスを提供している」ことを意味している場合が多いのです。
【地域差:都市部と地方で費用が変わる仕組み】
もう一つの大きな要因が「地域差」です。これは、「地域区分」と呼ばれる制度により、介護報酬の単価が地域ごとに調整されていることに関係しています。
調整の背景には、地域ごとの物価・人件費の違いがあります。以下ような傾向があります。
・都市部(例:東京23区・大阪市・横浜市など)
人件費や土地代が高いため、介護報酬も高めに設定され、報酬単価が1.15倍から1.20倍程度に補正されています。その分、利用者の自己負担も増える傾向にあります。
・地方都市(例:宇都宮市・松山市など)
都市部よりは物価が低いため、報酬の補正は1.05倍から1.10倍ほどにとどまります。自己負担額はやや抑えられます。
・農村部や離島など
全国平均に近い、もしくは平均以下の水準で設定されている地域もあり、費用は比較的安くなります。
注意すべき点は、この「地域区分」は市区町村単位で設定されており、同じ都道府県内でも市が違えば費用に差が出ることがあるという点です。たとえば、同じ「〇〇県」内でも、都市部のA市と郊外のB市では1か月の費用に数千円の差が生じることもあります。
【制度の違いによる差】
以上のように、介護施設の費用の違いは、制度上の加算と地域区分による合理的な違いです。
・加算が多い施設は、専門的・個別的ケア体制が整っており、その分サービスが充実している
・地域区分の高い地域にある施設は、物価や人件費を反映した設定になっている
このような違いは、「不公平」ではなく、「制度に基づいた正当な運用」と言えます。
【施設を選ぶ際の注意点】
施設を選ぶ際には、「費用が高いからやめる」「安いから良い」といった判断だけではなく、以下のようなポイントを確認することが大切です。
・施設が取得している加算の種類と内容
その施設がどのようなケアに力を注いでいるのかがわかります。
・所在地の地域区分のレベル
費用の違いが地域によるものかどうか見極める手がかりになります。
・自分や家族に必要なサービスが提供されているかどうか
単に安い施設よりも、必要なケアをしっかり受けられる施設を選ぶことが重要です。
加算の内容や施設の体制は、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」などで確認することができます。