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2026.05.13
相談員ブログ

「さっきのことは忘れるのに昔の話は憶えている」認知症で見られる記憶の偏り

【「さっき聞いた話」は忘れるのに、昔の出来事はよく覚えている】
認知症の人と接していると、「今日の日付は分からないのに、昔の話は驚くほど詳しく覚えている」という場面があります。
「ごはんを食べたことを覚えていないのに、戦後の苦労話ははっきり話せる」
「家族の顔が思い出せないことがあるのに、昔の仕事は体が覚えている」
こうした様子を見ると、不思議に感じる人も多いでしょう。
しかし、これは認知症でよく見られる特徴です。単純に「全部を忘れていく病気」ではなく、新しい情報を脳に取り込む機能が先に弱くなるという、記憶の偏りが起きやすいのです。

【記憶には「しまう場所」がある】
人の記憶は、一度に完成するわけではありません。
まず体験したことが「短期的な記憶」として脳に入り、その後、整理されながら長期記憶として保存されていきます。
この働きに深く関わるのが、脳の「海馬(かいば)」と呼ばれる部分です。海馬は、新しい出来事を記憶として定着させる「入り口」のような役割を担っています。
アルツハイマー型認知症では、この海馬が早い時期から影響を受けやすいため、新しい情報をうまく保存できなくなります。「今起きたこと」を記憶に残す機能そのものが難しくなっているのです。
一方で、昔の記憶はすでに脳の広い範囲に、いわば「バックアップ」が取られた状態で保存されています。そのため、認知症が進んでも比較的長く保たれやすいのです。

【「感情」と「体」が覚えていることは強い】
特に、強い感情を伴った記憶は残りやすい傾向があります。
たとえば、戦争体験、初恋、結婚、子育て、必死に打ち込んだ仕事などは、何十年経っても鮮明に覚えていることがあります。
これは単なる「データ」ではなく、感情と深く結びついた体験だからです。人の脳は、心が大きく動いた出来事ほど印象に残りやすく、高齢になっても消えにくい性質を持っています。
また、仕事の段取りや家事の手順などは、頭で覚えるというより「体が覚えている記憶」として深く刻まれています。そのため、最近の出来事は忘れてしまっても、慣れ親しんだ作業をさせるとスムーズに動けることがあります。

【「昔に戻っている」のではない】
認知症の人が昔の話ばかりすると、「昔の時代に戻ってしまった」と表現されることがあります。
しかし実際には、“昔しか分からなくなった”というより、“新しい記憶を積み上げられないため、残っている記憶を頼りにしている”状態に近いのです。
たとえば、最近の出来事が曖昧になると、人は自然に「自分の中に一番しっかり残っている記憶」を杖のようにして、今の世界を理解しようとします。その結果、若い頃の話が増えたり、かつての役割(仕事や育児)を全うしようとしたりする姿が見られるのです。これは「わがまま」ではなく、その人なりの一生懸命な適応と言えるでしょう。

【周りが否定すると不安が強くなることも】
認知症の人が昔の話をしているとき、そばにいる人は「それはもう終わったことでしょう」と訂正したくなることがあります。もちろん安全面への配慮は必要ですが、頭ごなしに否定されると、本人は「自分の世界を認めてもらえない」という強い不安を感じてしまいます。
たとえば、
「お仕事を頑張っていたんですね」
「お子さんを大切にしていたんですね」
と、記憶の中にある「感情」に寄り添うように接してみましょう。自分の大切な記憶を共有できると、本人の不安が和らぎ、心が落ち着くことがあります。

【昔話には、「その人らしさ」が残っている】
認知症が進行しても、長年積み重ねた人生そのものが消えるわけではありません。
昔話にはその人がどんな時代を生き、何を大切にしてきたかという「その人らしさ」が詰まっています。
介護の現場でも、こうした昔話がケアの大きなヒントになります。「覚えていないこと」に目が向きがちですが、「まだ鮮明に残っている記憶」に注目すると、認知症の人との関り方は少しずつ変わってきます。
認知症は「何もかも失う病気」ではありません。長い年月をかけて積み重ねた経験や感情は、最後までその人の心の中にあり続け、その人を支えているのです。
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