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2026.07.09
相談員ブログ

テレビの音を大きくしても聞き取れないのはなぜ?加齢性難聴の意外な特徴

「テレビの音が大きすぎるよ。」
そう言っても、お父さんやお母さんは「まだ聞こえない」とさらに音量を上げる。それなのに、テレビのセリフや家族との会話では「何て言った?」と聞き返すことが増えている──。介護をしている家族なら、このような場面を経験したことがあるのではないでしょうか。
「耳が遠くなったからだろう」と思われがちですが、実は加齢性難聴では、単に音が小さく聞こえるだけではありません。音量を上げると音自体は聞こえやすくなりますが、「言葉の聞き分けが難しくなる」という特徴もあります。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

【音を大きくしても会話が分かりにくい理由】
耳の奥には「蝸牛(かぎゅう)」という器官があり、その中には「有毛細胞」と呼ばれる細胞が並んでいます。この細胞は、音の振動を電気信号に変えて脳へ伝える、いわば「音のセンサー」の役割を担っています。
しかし、年齢を重ねるとこの細胞が少しずつ傷ついたり、失われたりします。現在の医療では、一度傷ついた細胞を元に戻すことは難しいとされています。
センサーが傷つくと、音そのものが聞こえにくくなるだけでなく、言葉を細かく聞き分ける力(音の解像度)も低下します。テレビの音量を上げてもセリフがモゴモゴと聞き取りにくかったり、家族の話がよく分からなかったりするのは、このためです。

【耳は40代頃から少しずつ老化している】
個人差はありますが、耳の老化は40代頃から始まるといわれています。ただし、進行はとてもゆっくりなため、多くの人が生活で不便を感じ始めるのは60~70代以降です。
介護が必要になる年代では、加齢性難聴がさらに進んでいる人も少なくありません。
また、高齢になるほど、認知機能の変化など脳の働きに変化が生じる人も増えます。
耳から入ってくる「聞こえにくさ」に加えて、「脳で言葉を処理する力」の変化が重なると、会話の理解がより難しくなることもあります。

【高い音ほど聞き取りにくくなる】
加齢性難聴では、高い音から順番に聞こえにくくなることが知られています。
私たちが話す言葉のうち、「サ行」「タ行」「カ行」「ハ行」などの子音には、高い周波数の音が多く含まれています。一方で、「あ・い・う・え・お」といった母音は比較的低い音です。
高い音が聞こえにくくなると、言葉の「子音」が聞き取れず、「母音」ばかりが強調されて耳に届くようになります。
その結果、声自体は聞こえていても言葉の輪郭がぼやけてしまい、「何と言ったのか分からない」と感じやすくなるのです。
「もっと大きな声で話せば大丈夫」と思われがちですが、単に音量を大きくするだけでは解決しないことが多いのはこのためです。

【騒がしい場所ではさらに聞き取りにくい】
デイサービスの食堂や病院の待合室、親族が集まる食事会などでは、「家では普通に話せるのに、何度も聞き返す」ということがよくあります。
これは耳だけでなく、脳の働きも関係しています。私たちは普段、耳と脳のチームワークによって、周囲の雑音を無視して「必要な声だけ」を選んで聞き取っています。
しかし、加齢によってその働きが衰えると、周囲にさまざまな音がある環境では、聞きたい声を選び出すことが難しくなってしまいます。
そのため、テレビをつけたまま話しかけたり、複数の人が同時に話したりすると、さらに会話が成立しにくくなります。

【介護では「聞こえ」に配慮するだけで変わることもある】
高齢者が返事をしなかったり、話がかみ合わなかったりすると、「認知症が進んだのでは」と心配になることがあります。
しかし実際には、話の内容が十分に聞き取れていないだけという場合も少なくありません。
単に「音が聞こえない」のではなく、「言葉として聞き取りにくい」という特徴があることを理解することが大切です。
介護の現場でも、以下のような少しの工夫だけで、コミュニケーションがぐっとスムーズになることがあります。
・正面から顔(口元)を見せて、ゆっくり話す
・「〜だから、〜で、」と繋げず、短い文章で区切って伝える
・テレビを消して、静かな環境を作ってから話しかける

【放置すると生活の質にも影響する】
聞こえにくくなると、何度も聞き返すのが申し訳なくなり、会話自体が億劫になってしまうことがあります。その結果、人との交流や外出の機会が減ってしまうことも少なくありません。
近年では、難聴と認知機能の低下、あるいは社会的孤立との関連性が深く指摘されており、厚生労働省や国の認知症施策でも「聞こえ(難聴対策)」の重要性が非常に注目されています。
もちろん、難聴だけで認知症になるわけではありません。しかし、聞こえを見直すことは、人とのつながりや毎日の生活の質(QOL)を保つうえで、とても大切な要素の一つと考えられています。

【「年のせい」と決めつけず、一度相談を】
介護が必要な高齢者では、「年だから仕方ない」と聞こえにくさが見過ごされがちです。
しかし、聞こえの環境が改善すると、自然と会話が増え、表情が明るくなったり、デイサービスなどでの交流がしやすくなったりする人もたくさんいます。
・テレビの音量が以前より大きくなった
・何度も「え?」と聞き返すことが増えた
・後ろから話しかけても反応が鈍い
そんな変化に気付いたら、「年のせい」で片付けず、一度耳鼻咽喉科(補聴器相談医のいるクリニックなど)で相談してみることをおすすめします。
耳の聞こえを見直すことは、本人だけでなく、介護をする家族にとっても、毎日のコミュニケーションをより穏やかで良いものにする第一歩になるはずです。
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