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2026.06.02
相談員ブログ

なぜ高齢者は電話詐欺に遭いやすいのか‐「注意していても騙される」には理由がある

「自分は大丈夫」と思っていた人が、ある日突然、電話詐欺の被害に遭ってしまう。
ニュースや自治体の広報で繰り返し注意喚起されているにもかかわらず、高齢者の電話詐欺被害者は後を絶ちません。
しかしこれは、「高齢者だから判断力が低い」という単純な話ではありません。
加齢による身体や認知機能の変化、時代背景、そして詐欺の手口の巧妙化など、複数の要因が重なっています。電話詐欺は、人間心理や脳の仕組みを巧みに利用した犯罪です。

【「衰え」ではなく「成熟ゆえの優しさ」が狙われる】
電話詐欺の被害者がよく口にするのが、「まさか自分が」という言葉です。
実は、多くの被害者はもともと警戒心が低かったわけではありません。むしろ「自分はしっかりしている」という人ほど、最初の警戒を突破されることがあります。
詐欺グループは、息子を装ったり、警官や行政を名乗って不安を煽り、まず相手を「信じても良いかもしれない状態」に誘導します。人は一度「本物かもしれない」と感じると、その後の情報を疑いにくくなる傾向があります。
近年の研究では、高齢になると疑いや恐怖といった不快な情報への反応が穏やかになり、逆に「人の役に立ちたい」という気持ちが高まる傾向が指摘されています。「衰え」ではなく「成熟ゆえの優しさの隙」を犯人は突いてくるのです。

【加齢による変化と電話詐欺の関係】
高齢になると、突然の話への対応や、複数の情報を同時に整理することが脳の負担になります。電話詐欺で「今すぐ」「急いで」と時間的なプレッシャーをかけるのは、この冷静な判断力を奪うためです。
また、「なぜ息子の声だと信じてしまうのか」という疑問にも、加齢による身体の変化が関係しています。
高齢になると高い音が聞こえにくくなり、電話の声がいつもと違って聞こえます。そこで犯人に「風邪をひいた」と言われると、脳が「これは息子の声だ」と過去の記憶を使って「音の穴埋め(補正)」をしてしまうのです。騙されるのは、脳の高度な機能が裏目に出てしまうからでもあります。

【孤独や社会的孤立が影響することも】
一人暮らしなどで日常的に会話の機会が少ない高齢者の場合、電話相手が親身に話を聞いてくれたり、不安に共感してくれたりすると、心地よさからやり取りを続けてしまうことがあります。
人は孤独な状況にあると、「怪しいかどうか」より「自分を理解してくれるか」を優先しやすくなる傾向があります。犯行グループは、こうした心理的距離の縮め方もマニュアル化しています。


【「信頼を重視する世代」という背景】
現在の高齢者は、対人関係において信頼や肩書き(警察、役所など)を重視してきた時代背景があります。
また、若い頃の固定電話は高い加入権を払って設置した「信頼の象徴」でした。「家に直接かかってくる電話は、信頼できる連絡」という認識が残っていることも影響しています。

【認知症を狙う冷酷な手口と、もう一つの真実】
電話詐欺をめぐっては、あえて認知症(またはその疑いがある人)をターゲットにする極めて冷酷なケースが後を絶ちません。「被害に遭ったこと自体を忘れてしまう」「同じ話を何度でも信じてしまう」という症状を悪用し、同じ高齢者から何度もお金を騙し取る「次々詐欺」がその典型です。
一方で、もう一つの事実は。「認知症ではない、しっかりした高齢者」の被害も非常に多いという点です。
軽度認知障害(MCI)による一時的な判断の揺らぎが影響することもありますが、電話詐欺の本質は「正常な人間心理」をハッキングする犯罪です。家族を思う優しさや焦りに揺さぶられれば、認知機能に問題がなくても誰でも判断を誤ります。つまり、認知症という弱みに付け込まれるリスクと、「人間だから騙される」リスクの双方が存在するのです。

【高齢者の電話詐欺対策:家族ができること】
被害に遭う瞬間、本人は「これは詐欺ではない」と思い込んでいます。そのため、「気をつけて」という注意喚起ではなく、あらかじめ「行動のルール」を決めておくことが重要です。
・知らない番号には出ない(常時留守番電話設定)
・迷惑電話防止機能付き電話機を活用する
・電話でお金の話が出たら必ず一度切る
家族が「怪しかったらすぐ私に電話して」と伝えるのは、実は不十分です。犯人は「誰にも言うな」と脅すため、後で報告しようとして手遅れになります。
対策としては、「我が家は、お金を動かす時は必ず家族で確認するルールだから、それが済むまで1円も払えない」と、その場で相手に言わせる決まりにしておく方が実効性があります。
日常的に雑談ができる関係を保ち、家族間のルールを共有しておくこと自体が、最大の詐欺対策になります。

【「騙される人」ではなく「狙われる人」】
電話詐欺の被害者は、「なぜ信じてしまったのか」と周囲から責められ、強い自責感からさらに孤立してしまうケースが少なくありません。
しかし、犯行グループは高齢者の心理、身体的変化、生活背景を徹底的に分析して、意図的に狙いを定めています。高齢者は「騙されやすい人」ではなく、「プロの犯罪集団にシステマティックに狙われている人」なのです。
電話詐欺は、お金だけでなく、自尊心や安心感まで奪う犯罪です。だからこそ必要なのは、注意不足を責めることではなく、「誰でも被害に遭いうる」という前提で、社会や家族が団結して守る視点です。
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